数年前から色や光に対して特別な感情が過る。わずか1分間の体験が忘れられない。 読谷のチビリガマに入った時のことである。 ローソクの明かりを消すと、墨をこぼしたような闇の世界が迫ってきた。 鼻先に持ってきた自分の手さえもなくなってしまった感情に陥った。 肉体を構成している細胞のすべては一瞬にして闇の中に溶け出し、ただ意識だけが取り残され、目は開いているはずなのに、指で確かめないとその存在さえ信じられない。 それほどに「深い闇」であった。 壕の外に出ると夏の太陽がギラギラしていた。 地面に伸びた影を見て緊張が解けた。 チビリガマは戦時中、集団自決のあった壕である。砲弾の炸裂する中を逃げて逃げて、生きる為に辿り着いた壕であったはずなのに、しかし、あの闇は、真の闇であった。 色という色をすべて黒に塗り替えてしまう。 底のない闇。 一筋の希望も光も覆い隠す黒い闇の世界。 人々は闇に呑まれてしまったのだ。 仕事の合間に手を洗いながら海を眺める。 青い青い色をしている。 躍動する色だ。 生きている色だ。 太陽光線に波頭が白く光る。 時々、魚の群れらしき潮の渦が見える。 生命を育む色だ。 帰る頃には、だいだい色や紫の夕焼け空。 さて、明日も頑張ろう。 |