医療従事者のエコロジー的視点
−あたりまえのチャレンジ−
事務長 藤本孝子
はじめに
介護保険法案が国会に提出され、2000年4月の実施が濃厚になった。
社会のテーマが、医療関連で言えば、臓器移植・脳死・癌そして問題のエイズは血友病がらみの薬害というか医療のあり方に方向を変え、
今や介護をめぐるものへと流れ始めている。現実の社会での出生の間違いない減少傾向と高齢化の加速により、
老人医療費が急増し、医療保険の財政は既にパンク同然の状況である。
長年国民の健康、つまり生存そのものに関わって来たのがこの医療保険制度である。
ところが、疾病構造の変化が進み、黙っていても延びてきた寿命、そして、高齢化は世界
一のテンポで今後も続き必ずと言っていいほどやって来る要介護期間。その人口構造を支えるのは、
青年・壮年世代そしてこれから生まれてくる赤ん坊であり、乳児・幼児・学童である。
その若年層が健康であってこそ、介護保険や医療保険が生きるのであって、
法律だけが一人歩きできる訳がない。
環境問題が叫ばれて久しい。一般市民としてどれほど重大に捉えて来たかというと、
恥ずかしながら人ごとであった。しかし今、ゴミ問題を広く病院から考え直す機会を与えられ、
地球環境を視点に持つ医療従事者が一人でも増えることを願って論を進めたい。
1.急増するガン死と環境破壊
地球環境破壊の現状は病気に例えれば全身的な疾患である。
この疾患は慢性疾患的であり、また中には症状の重いものがある。
環境汚染はダイオキシン・残留性化学物質・有機塩素系物質・発ガン性物質等々、
個々の環境問題は赤・黄色の信号を発して、対策の強化を訴えているが、症状が慢性的であり、
深く進行しているために治癒には手間と時間と金がかかる。
今、人類の身体を蝕むガンが多発している。日本では国民の3.5人に一人の割合がガンで死んでいる。
厚生省保険医療局疾病対策課監修の「成人病のしおり'95」は現在までの傾向がそのまま続くと仮定した場合の将来予測を出しているが、
2015年には43万6000人のガン死亡死者となるとしている。
なぜガンの罹患者数と死亡率がこれほど増えるのか。
特定の農薬、金属、ダイオキシン、ベンゼンなどおおくの一般的環境汚染物質が免疫系を阻害・低下させ、発ガン効果を高めていると推測されている。
即ち、身の回りにガンの原因となる有毒物質がたくさん存在するようになったためにもたらされた現象である。
2.広がるダイオキシン汚染−「史上最強の毒物」
ダイオキシンは微量でも体内に蓄積されれば、ガンを引き起こしたり、
後の世代に先天的異常を生じさせる。'97、5、18付けの琉球新報でも報じられているが、
「母乳のダイオキシン摂取で乳児の甲状腺ホルモン減少」とし、
アトピー性皮膚炎の増加にもつながっていると言う。
また、環境庁「ダイオキシンリスク評価検討会」によると、
米国で行われたダイオキシン投与の動物実験を紹介し「不妊症を誘発する子宮内膜症との関連」を示唆している。
ダイオキシンによる環境汚染が問題になったのは
産業廃棄物・一般生活廃棄物の焼却炉の残灰と飛灰から検出されてからである。
人体汚染について愛媛大学の脇本教授が世界各国の人々の人体脂肪組織状況を調査し
日本人の身体が最も高濃度のダイオキシンによって汚染されていることを報告した。
そして、「地方自治体や病院、学校、家庭などの焼却炉がダイオキシンを発生させているためである」とした。
3.医療従事者の認識不足
産業廃棄物の問題が世の中で論議される中、我々は真摯にゴミにめを向けて来ただろうか。
ゴミはゴミ箱に捨てれば、誰かがどこかへ処分してくれるだろう。
と、いう程度の認識ではなかったか。分別処理しなくてはいけない針などを、
普通のゴミ箱にポイと捨ててしまうことは無かったか。
医療機関では、医療廃棄物−感染性・非感染性−・給食による生ゴミ・一般的ゴミが発生する。
医療廃棄物については、形式的にはマニフェスト伝票があり許可証を持つ専門のゴミ業者によって回収されるようになった。
それは建前になってはいないか。安易に、適正処理の出来ない安さで手を挙げた業者に任せていないか。
現診療報酬の仕組みの中では、ゴミ処理のための点数はない。
経済的バックグラウンドがしっかりするためにわずかでも点数を付けてもらいたいと思うが、
医療人の常識として、分別すべきであろう。
病院の中では、手袋の使い捨て、注射器の使い捨て、
等々なんでもかんでも使い捨てにしてそれが安全のためにむしろ当たり前になっているが、
ゴミの問題からいえば、ごみを出さないのが原点だろうと思う。感染症等の観点からだろうが、
病院には使い捨てはむしろ良いことだという誤解はないか。
4.家庭の使用済み廃棄物の回収と処理は
厚生省の方針通り在宅医療が、広がっている。更に、介護法案の成立に伴い、
在宅ケアがあたりまえになってくるだろう。
が、一般家庭からも医療廃棄物が排出されていることを見逃せない。
自宅での点滴による、注射器や針、輸液点滴セットなど。
また最も多いのは紙おむつであろうが、これらが家から出れば一般廃棄物で、
病院からでれば感染性廃棄物というのはおかしい。特にこの紙おむつは燃えるゴミ扱いをされ、
生ゴミなどと一緒に燃やされている。
在宅ケアに関わった病院が患者から回収し、
院内の医療廃棄物処理システムに基づいて廃棄処理している医療機関は極めて少ない。
回収は環境衛生・公衆衛生・ゴミ処理問題のためにも医療人の務めではないかと思う。
家庭ゴミとして廃棄される医療廃棄物の量は増えていることからも、
病院の対応が不可避ではないか。 単に病院内ばかりでなく、
もっと広く環境に対してどう安全な環境を作って行くか、
医療関係者自身が考える必要があると思う。
5.身近な経験からの思い
では医療関係者が、環境保全にどう取り組むのか。
医療廃棄物は医療人の常識の基にマニフェスト票通りに実践する。
それでは給食の生ゴミは産業廃棄物ではないか。生ゴミを土に戻す努力をする。
生ゴミだけの分別収集をし堆肥化し土に還元し、健康な土壌を作る。
水分80%という生ゴミが焼却場でダイオキシンを発生させる状況を更に附加していることを鑑み、
生ゴミを分別しようと地域に働きかけている。
当病院の自ら出す生ゴミから、
環境保全のためのリサイクルを実践する動きは職員の家庭の生ゴミも病院に集めることができるまでになりました。
医療人としての意識の高揚が僅かながらも実を結んでいると自負出来る。
更に、この動きは町をも巻き込んでダイオキシンの出ない町として誇れるまでになるのではないかと思う。
6.結び
これからの病院は、疾病治療という概念だけではなく、
健康・福祉をも念頭に置いて、地域活動を展開していく必要がある。
病院スタッフ自らが地域に出ていって、
いろんな場所で医療人ろしての活動をしていくことが重要ではないか。
「病人をつくらせない病院」「自然の健康も取り戻す病院」として。